踊り子の 鬢(びん)もほつれる 夏の伊豆


The wind that blows from the sea is very cool on the Izu plateau by Shimoda Kaido. This sight is reminiscent of a dancer who appears in “Izu no Odoriko”.
川端康成の名作『伊豆の踊子』に出てくる下田街道は、東海道三島の宿から伊豆市湯ヶ島、天城峠、河津町をたどって下田に至る総延長およそ80㎞の街道である。山あり峠あり、高原あり、名瀑ありの実に変化にとんだ道筋には温泉が散在し、高原からははるかに初島が浮かぶ相模湾が一望できる。
『伊豆の踊子』は、19歳の一高生が道すがら知り合った旅芸人一行の少女に淡い恋心を抱きながら同道し、ついには分かれるという哀愁物語でもある。
伊豆や箱根も今ではすっかり開発され、快適便利にはなっているが、もう『伊豆の踊子』の名残はわずかだ。
天城峠も新しいトンネルができ、たくさんの車が行き交い、どこも人が溢れている。
夏ともなれば、海岸海岸は色とりどりのパラソルが花咲き、嬌声が飛び交い、夜は打ち上げ花火でうるさいくらいだ。
これも時代の流れ。お互いに恋心を抱きながらも、それを打ち明けることもできず同道する旅路はもう昔物語の世界だ。
変わりゆく風景の中に、初島は海の向こうに浮かび、広がる大海原だけは変わらない。