ハーバードでいちばん人気の国・日本

 
『ハーバードでいちばん人気の国・日本』-なぜ世界最高の知性はこの国に魅了されるのか―
という本を読んだ。

1990年11月頃から始まったバブルの崩壊は、年平均賃金のピークが1997年なら、名目GDP(国内総生産)のピークも97年であるから、この1997年がピークで、爾来、日本経済は失われた10年といい、いつの間にか20年になり、今や25年に及ぼうとしている。
その間、何とか体勢を立て直そうとした矢先に起こった2008年9月15日のリーマンショック、さらには2011年3月11日に起こった東北大震災とそれに伴う福島第1原発事故は、もう泣き面に蜂どころではなかった。
国際通貨基金(IMF)によれば、2009年には中国に抜かれて世界第2の経済大国の地位をゆずり、14年には名目GDPで中国の半分になってしまうという始末。
国土全体が灰燼に帰した第二次世界大戦後から70年、奇跡の復興からバブルの崩壊とその後の低迷まで、琵琶法師が弾き語る『平家物語』がどこかから聞こえてくるような気さえする。

その日本が、世界最高峰の学び舎ハーバード大学の経営大学院で今いちばん人気のある国として紹介されているのがこの本の内容である。
著者は米コロンビア大学MBA(経営学修士)ホルダーの佐藤智恵氏。
ハーバード大学経営大学院では一学年約900人、二学年合わせて約1800人の学生が学んでいて、その多くが、いわゆる各国の要人の子女、富裕層の子女で、卒業後、各国の政財界で要職に就き、世界に大きな影響をもたらす人たちになるという。
その一年生が、毎年春になると研修旅行に参加するのが通例になっていて、行き先は、インド、イスラエル、イタリアなど約10ヶ国。その中でいちばん人気があるのが日本で、参加者募集をするや否やわずか数分で定員100名が埋まってしまうほどの人気だそうだ。
日本が人気を集めているのは研修旅行だけではなく、授業でも日本のCase Study(事例研究)は評価が高いという。
中でも、テッセイ(TESSEI;JR東日本テクノハート)の事例はすごい人気で、大学院でも企業幹部向けのコースで使われ、日本の企業文化とそのバックボーンになっている日本人の特質及び文化が集約されていて、絶好の教材になっているそうだ。
TESSEIは、皆さんもご存じだろうが、華やかな衣装に身を包んだ従業員が、わずか7分という短時間で停車中の新幹線の全車両とトイレの清掃を終わらせ、しかもそれだけではない、清掃後、従業員全員が黙礼してお客を向かえ入れるあの光景、海外でも「新幹線お掃除劇場」(Shinkansen Cleaning Theater)として絶賛紹介されているあれだ。
その他、世界が絶賛したトヨタの奇跡のマネジメント、アメリカより120年も前に先物市場をつくった日本の先駆性、明治維新と岩崎弥太郎のこと、日本人の持つ無私の精神とあくなき探求心、なぜハーバードの教員も学生も日本に魅せられ、何を学び取ろうとしているのかが熱く紹介されている。
そして最後に、日本はとてつもない力を秘めている。それは人的資本であり、日本の強みは日本人そのものだという。
⓵ OECD24か国の中でも突出した高い教育水準(今だけではない、フランシスコ・ザビエルも驚いたくらい昔から)
⓶ 自動車産業における日本人の分析的な特性
⓷ アップルのスティーブ・ジョブズが大いに影響を受けた日本人の美意識、美的センス
⓸ 人を大切にするマインドと改善の精神
⓹ 日本の風土から生まれた環境意識と自然観
⓺ 金儲けより公益を優先する社会意識
不確実性の時代を生き抜くための指針として、世界はいま一度日本から学ぶべし。そして同時に日本がこれから世界をどうリードするかを考えるヒントにもなるはずと、
いつのまにか、琵琶の音に合わせて踊りだしたくなってくる。

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