福島原発事故から6年、さて?

 
3月17日、東京電力福島第一原子力発電所の事故で、群馬県に避難した人など、130人余りが起こした裁判で、前橋地方裁判所は「津波を事前に予測して事故を防ぐことはできた」として、国と東京電力の責任を初めて認め、3800万円余りの賠償を命じる判決を言い渡した。
判決文の中で、前橋地方裁判所の原道子裁判長は、平成14年7月に政府の地震調査研究推進本部が発表した巨大地震の想定に基づき、国と東京電力は、その数か月後には巨大な津波が来ることを予測できたと指摘。また、平成20年5月には東京電力が予想される津波の高さを試算した結果、原発の地盤を越える高さになったことを挙げ、「東京電力は実際に巨大な津波の到来を予測していた」とし、「事故の原因の1つとなった配電盤の浸水による機能の喪失を防ぐため、非常用の発電機を建屋の上の階に設けるなどの対策を行うことは容易だったのに行わなかった。原発の津波対策は、常に安全側に立った対策を取らなければならないのに、経済的な合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応で、今回の事故の発生に関して特に非難するに値する」と指摘した。
また、国の責任についても、「東京電力に津波の対策を講じるよう命令する権限があり、事故を防ぐことは可能だった。事故の前から、東京電力の自発的な対応を期待することは難しいことも分かっていたと言え、国の対応は著しく合理性を欠く」として、国と東京電力にはいずれも責任があったと初めて認めた。
この判決文でも不十分で、そもそも、設置当初からして、出来合いの原子炉をできるだけ安く設置するために、その仕様に合わせて35mの台地をわざわざ25m削って10mの敷地にし、そこに原子力発電の主要施設を設置したこと、非常用電源をこともあろうに建屋の下に設置するという非常識極まりない、経済合理性優先のみの設計思想に根本原因がある。この点はもっともっと追及されるべきものだった。
これと対照されるのが、主要施設が14.8mに設置されていたため難を逃れた、より震源地に近く揺れも大きかった隣の東北電力女川原子力発電所である。この4.8mが命運を分けたことになる。
東北電力女川原子力発電所は東京電力第一原子力発電所より後にできたが、869年の貞観大津波を詳しく調べていた東北電力副社長の平井氏が、女川原発の設計段階で、防波堤の高さは「12mで充分」とする多数の意見に対して、たった1人で「14.8m」を主張し続け、最終的には平井氏の執念が勝り14.8mの防波堤が採用された経緯があったという。しかも、氏はさらに、引き波による水位低下も見越していたとのことで、取水路は冷却水が残るよう設計されたそうだ。
そもそも東京電力の福島第1および第2原子力発電所は地元の東京圏になく、東京から200km以上も離れた場所に立地していたため、東京電力の原子力発電所の計画・建設に参加した人の大部分は東北地方と関係がなく、東北からみればよそ者で、津波に関する畏怖がなく、立地する地域に原子力災害が及ぶ可能性を想像することすらできない想像力欠如、頭でっかちの経済優先者主導の産物だったわけだからたまったものでない。
かてて加えて、時の政権が、『首相のリーダーシップ強化・内閣と与党の一体化』を政権構想に掲げて登場して間もない民主党だったことが事態をより悪くしたことも否めない。
在外公館が福島原発事故直後、慌ただしく避難準備を始めた折にも、正確な情報をキャッチしえず、御用聞き原子力学者を総動員してのマスコミ対策。政局打開のための首相のリーダーシップ発揮など等。今思い出しても身震いするほどの事態だったわけだ。
それから6年。やっと司法による福島原発事故の判断が下ったわけだが、日本のエネルギー政策は根本から見直さなければならない事態になり、未だに確固とした政策を打ち出せずにいる。
世界のエネルギー事情も、アメリカのシェールオイル増産による原油価格下落、それによるサウジアラビアを中心としたアラブ諸国の混乱とロシア経済の不安定化、原子力エネルギーと化石燃料エネルギーの対費用効果から変わる化石燃料エネルギーの復活と地球温暖化対策の後退、など等。2020年、21世紀の5分の1世紀が経とうとしている今、希望もあるが心配も満ち満ちている。
CO2と地球温暖化の関係も判断がむつかしい。
2015年に英国ノーザンブリア大学のバレンティーナ・ザーコバ教授率いる研究チームの発表によれば、太陽の活動は2030年代に現在の60%にまで減少し、1645年に始まった「ミニ氷河期」(マウンダー極小期)の時代に近い状況になるという。つまり「2030年、世界は氷河期に突入する」というのだ。これもまんざら嘘でなく、地球規模、宇宙規模で考えれば、地球の氷期と間期は繰り返しているし、こう考えるとCO2増加と温暖化はミニマムな問題になってしまう。
原子力発電の問題も同じ。
IAEA(国際原子力機関)は、世界全体の原子力規模が2030年には現在の1.17~1.94倍になると予測しているし、長期的には、開発途上国における人口増加や電力需要増加だけでなく、気候変動対策やエネルギーの安定供給、他の燃料価格の不安定性などの理由から、原子力はエネルギーミックスの中で重要な役割を果たすとしている。現に、2016年現在、世界で設置されている発電所は434基(日本は43基で世界第3位)で、これから設置しようとしている数は30カ国で183基が建設・計画中となっている。
原子力発電の最大のネックは放射能廃棄物をどう処理するかの問題で、最大でも10万年単位で考えねばならず、日本でもその解決の糸口は見えていない。
ただ一筋の光明もある。2014年、三菱重工業が重水素を使い、少ないエネルギーで元素の種類を変える元素変換の基盤技術を確立したというニュースだ。これは、放射性セシウムや同ストロンチウムを、無害な非放射性元素に変換する放射性廃棄物の無害化処理に道を開くもので、原発メーカーとして実用化を急ぐという。
さてさて、いずれにしろ右か左か選択していかなければ世界は進まない。付いていくしか仕様がないでもすまされないし。

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