☆★☆ 新・映像の世紀 ☆★☆
ドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」の『新・映像の世紀』をNHKオンデマンドで全6回を一気に見た。
前回の『映像の世紀』は、第二次世界大戦の戦後50周年とNHKの放送開始70周年、そして映像発明100周年の記念番組と銘打たれて、世界30ヶ国以上のアーカイブから収集した貴重な映像と回想録や証言等で20世紀を描いたドキュメンタリー番組で、1995年3月から1996年2月にかけて全11集が制作・放送され、大きな反響を呼び、その後も繰り返し繰り返し放映されてきた。
今回の『新・映像の世紀』は、『映像の世紀』から20年、第二次世界大戦から70年、NHKの放送開始90年、映像発明から120年を記念して、その後新たに見つかった映像や真実を交え、6回に纏め上げた続編である。
改めて思うことは、映像の持つ伝播力と影響力と迫真力のすごさである。そしてこの作品に携わったスタッフの方々の情熱とまさしく映像技術の高さに驚きと敬服の念を禁じ得ない。
映像技術が発明されて高々100余年、その半分の世界を生きてきた人はまだ多い。
第一次世界大戦で初めて使用された毒ガス兵器で犠牲になった多くの兵士の悲惨さを見て、これが高校で習ったあのアンモニア合成のハーバー博士が主導したものとは俄かに信じ難く、いまに至るまで化学兵器開発に血眼になっている兵器産業のおぞましさに身震いする。
底知れない憎しみの連鎖が今も渦巻く中東の混乱が、元を質せば、映画『アラビアのロレンス』で描かれた英雄ロレンスの裏切りとその背後のイギリス、フランスの打算に基づくものであることも腹立たしい。
せいぜいランプの明かりにしか使われなかった石油に目を付け、悪魔とも呼ばれながら史上最大の富豪にのし上がったジョン・ロックフェラー、アメリカ大統領さえ頭の上がらなかった金融界の大ボス、モルガン、自動車王フォード、発明王の名で知られ世界の子供たちが尊敬するエディソンが作ったGM、等々、いま世界ナンバーワンのアメリカを築き上げた大富豪たちが、あの20世紀最大の狂人と言ってもいいヒトラーを支え、第二次世界大戦の惨劇を生み出した事実は忘れてはならないし、いまだにそうした大富豪が世界を動かしている事実を記憶に留めておかなければならない。
化粧品ならマックスファクター、バッグや装飾品ならシャネル、ナイロンストッキングならデュポン、自動車ならベンツ、いま私たちのあこがれの品々を作っている企業もすべてヒトラーを支え大きく成長してきたのである。
一方では、自由と平等を旗印にロシア革命を起こし、世界最初の社会主義国家ソビエト連邦共和国を作り上げたレーニンこそが、「この世のユートピアを創造する」との名目で、闘争、飢餓、虐殺、恐怖を社会に広げ、一億人にも上る犠牲者を出した張本人だと言われている。そのレーニンを引き継いだスターリンも、歴史用語にもなった「大粛清」で4000万人ともいわれる人民を虐殺し、そして中国共産党を設立して中華人民共和国を作り上げた毛沢東は、その後の文化大革命で同じく4000万人は下らない、一説には7000万人もの人民を虐殺したといわれている。
そのほか、カンボジアのポル・ポト、お隣り韓国の李承晩に金日成、まさしく20世紀は戦争の世紀であると同時に政治的独裁者の大虐殺の時代でもあったのである。
虐殺と言えば、社会主義国家や後進国の専売特許ではなく、20世紀最大の「文明国家」アメリカも人語に落ちない。
ベトナム戦争では南北合わせておよそ800万人の犠牲者が出たといわれているが、アメリカ軍によって虐殺されたベトナム人はその10%、80万人は下らないと言われているし、何よりもわが国に落とした原爆で投下直後の犠牲者が広島で14万人、長崎で9万人と言われているから、これこそアメリカが起こした大虐殺なのである。
ここで記憶に留めておかなければならない人物がいる。
その名はアメリカ空軍大将カーチス・ルメイ。第5代空軍参謀総長を務め上げた人物である。
第二次世界大戦の欧州戦線では数々の武勲を立て、最後には太平洋戦線にやってきて、日本焦土化作戦を立案し、東京大空襲、そして広島・長崎の原爆投下にも指揮を執った男である。
東京大空襲による死者数は10万人、罹災者数は100万人を超えると言われているが、それに広島、長崎の犠牲者数を加えると優に50万人を超える日本人を虐殺したのであるが、驚くなかれ、この大将軍様、その後日本国政府、佐藤政府から、勲一等旭日大綬章といって上から4番目の勲章を授けられたのである。この勲一等旭日大綬章は戦前であれば軍人の大将、中将クラスが受賞し、最近では国会議員の大臣経験者やノーベル賞受賞者が多く与えられている勲章というから驚きだ。自衛隊の設立と向上に寄与したという名目だが、さすがに昭和天皇は叙勲に立ち会わなかったといういわく付きの叙勲なのである。
このルメイ、朝鮮戦争では、「我々は朝鮮の北でも南でも全ての都市を炎上させた。我々は100万以上の民間人を殺し数百万人以上を家から追い払った」と平然と武勲を語り、ベトナム戦争では、空軍参謀総長の任にあって、「(北)ベトナムを石器時代に戻してやる」と豪語し北爆を推進したという。さらに、いわゆるキューバ危機に際しては、ケネディ大統領に対し、「ソ連が百五十発の核爆弾の発射準備に一カ月の時間を必要としているうちに、アメリカは七百五十発の核爆弾を一気に使用して、数時間でソ連を壊滅状態に追い込む」ことを真顔で進言したというから、まさに戦争オタク、実行されていたら今や地球全体が福島状態、さすがのケネディも顔をしかめたそうだ。
アメリカという国、アメリカ人を買いかぶってはいけない。カーチス・ルメイのような男が軍のトップに出てくる国であり、世界一番の大金持ちで、世界の最先端を走り、世界の皆があこがれを持つ国であることも事実である。その歴史を知ると窺い知れない多重人格性と多面性を持つ国であり、実にプラグマティックな国、はしなくもトランプ大統領が連呼する「America First」の国で、昨日の友は今日の敵になりうる要素を秘めている。
戦後、共産主義国家のドミノ倒しを恐れるあまり、国内においては「赤狩り」と称してマッカーシー旋風を巻き起こし、FBIに委ねて監視社会を築き上げ、国外においては、アメリカにとって都合の悪い政府、政権をCIAの謀略で転覆、要人暗殺をやってのけ、日本なんて糞食らえ、頭ごなしに突然中国毛沢東と握手するのがアメリカという国なのである。アーサー・キング牧師の名演説は今でも耳に残るが、未だに根深い人種差別があり、銃乱射による犠牲者が山のように積まれても銃は野放し。果たしてアメリカは文明国家と言えるのか。成り上がりのシルキー・ボブで本質は未開人、野蛮人ではないのか。改めて考えさせられた。
そんな中、東西両陣営で同時に起こった若者たちの反乱を引き起こしたのはテレビであり、キューバ革命のチェ・ゲバラを目の当たりにし、天安門事件では解放運戦車の前に立ちふさがる学生を映し出し、ビートルズ、ミック・ジャガー、ボブ・ディラン、マイケル・ジャクソン、ガガといったスーパースターも身近に感じられるようにしたのもテレビである。
そして21世紀は、あのロックフェラー一族が掲げる理想「World Peace through Trade」から命名された「世界貿易センター」ビルに旅客機二機が突っ込むという衝撃的なテロ事件で幕を開けた。インターネットを通じて世界はその映像を瞬時にして見、人々の憎しみを増幅した。その後世界各地で繰り広げられるテロ事件の数々をバーチャルリアリティーとして感知し、今や仮想と現実の境界も怪しくさえなってきている。
一方、映像は国境を越えて人々の心をつなぎ、一方的に流されていたYouTubeにも誰もが自由に情報を発信し、SNSで連帯感を生み出し、引き裂かれた世界を再びつなぐ役割を果たしているのも映像だ。
こうしてみてくると、はたしてこれからの21世紀はどんな世界になり、どんな映像が映し出される社会になるのだろう。100年の進歩は計り知れないほど著しい。
実に感慨深くこの『新・映像の世紀』を見させていただいた。