昭和の遺書

南九州の制空権  すでに敵の手中にあり
我らが祖国  まさに崩壊せんとす
生をこの国に享(う)けしもの  なんぞ生命を惜しまん
愚劣なりし日本よ  優柔不断なる日本よ
汝いかに愚かなりとも  我らこの国の人たる以上
その防衛に  奮起せざるをえず
オプティミズムをやめよ  眼をひらけ
日本の人々よ  日本は必ず負ける
そして我ら日本人は  なんとしてもこの国に
新たなる生命を吹きこみ  新たなる再建の道を
切りひらかなければならぬ
若きジェネレーション  君たちは
あまりにも苦しい運命と  闘わねばならない
だが頑張ってくれ
盲目になって生きること  それほど正しいモラルはない
死ではない  生なのだ
モラルのめざすものは  そして我らのごとく死を求る者を
インモラリストと人は言わん
林 尹夫 (ただお)
林は京都大学文学部で西洋史を専攻 学徒出陣して海軍飛行予備学生となり
昭和20年7月28日夜間索敵哨戒飛行中に敵の夜間戦闘機の迎撃を受けて戦死
―『文芸春秋』2009年1月号「昭和の遺書[53通](梯 久美子)より引用 ―

昭和の遺書」への4件のフィードバック

  1. 上段にある★☆★ 昭和の遺言 ★☆★の朗読を聞くたびに涙が出ます。
    後半の素子の部分は鶴田浩二が朗読していますが、最後の感極まって朗読するところでは、こちらも今また涙が出て止まりません。
    こういう時代はもう二度と来てほしくありませんが、こんな時代でないと、先の東北大震災もそうでしたが、真の感動を人に呼び起さないのはあまりにも不条理です。
    こういう時代のことを知ることによって、今私たちの幸せが真に噛みしめることができるのだと思います。
    ありがとうございました。

  2. 盲目になって生きること・・なんと悲しいモラルの時代だったのでしょう!!
    しかし、今の時代は半分目を開け、半分目を瞑って生きることが要求される難しい時代なのかもしれませんね。

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