続・原子力発電

 
「ゲリラ豪雨」という言葉もすっかり定着してしまった感がある。
2008年にこの「ゲリラ豪雨」という言葉が流行語大賞を獲得したころは、まだこの言葉がそれだけ話題性があったからで、今のように局所的集中豪雨が日常的になれば流行語ではなく日常語になってしまった。
この「ゲリラ豪雨」、何も東京に限ったことではなく、今や日本のいたりところで起こっていて、そういう規模になれば日本の気候変動、ひいては世界の気候変動にも関連してくるだろうが、こと東京に限っては東京の特殊環境が原因と考えられる。いわゆるヒートアイランド現象だ。
小学校や中学校で習ったように、一日の風向きは、昼間は海風、夜は陸風とだいたい決まっていたんだが、東京のように高層ビルが立ち並ぶと、昼間の海風は「東京ウォール」で遮られて吹き込まず、夜は夜で、「ビル・ヒーター」で気温も下がらないから陸風も起こらない。一日中暑い空気が滞留するだけになってしまう。溜まりに溜まった熱い空気は海にではなく空に勢いよく舞い上がると、上空の寒気と急激に混ざり合い積乱雲が発生し、バケツから水を撒くように雨が降り、雷は鳴り響き、突風が吹き荒れるということになる。これが東京型ゲリラ豪雨だ。
しかし、このゲリラ豪雨が東京だけに留まらないということだ。日本全国各地で起こっているし、世界の各地でも今までに経験したような気候変動の兆候が表れている。
原因を特定することはむつかしいが、二酸化炭素の増大による温室効果ガスが原因の一つになっていることは多くの学者が指摘し、各種観測データもそれを裏付けている。
すでにもう、20年以上にもなったが、1997年の「京都議定書」が採択され、二酸化炭素等による地球の温暖化対策に取り組もことが宣言された。日本は最も厳しい15年後90年比6%を受け入れ、2009年には当時の鳩山首相が国連で「2020年までに温室効果ガスの排出量を90年比25%削減する。」と国際公約までした。
しかし、2011年の福島原発事故により、二酸化炭素削減の牽引車になるはずの原子力発電に赤信号が点り、日本は原子力発電所はすべて停止。世界各国もその衝撃で部分的停止が相次ぎ、開発にもブレーキがかかる事態になった。
京都議定書も2012年には目標を達成できないままうやむやになってしまっている。あれだけ熱心に主導した日本は2013年以降は「京都議定書」の延長には加わっていないのだ。
かくして、2011年以降は原発事故の恐ろしさを目の当たりにしてからは、あれだけ叫ばれていた二酸化炭素による温室効果ガス問題はどこへやら。
日本には57基の原発があるが、現在稼働中の原発は5基。福島原発事故に発せられた原子力緊急事態宣言は今も発令中なのである。
震災前後の電源構成を見てみると、原子力発電(32%→2%)、石油等火力発電(4%→19%)、LNG火力発電(33%→47%)、石炭火力発電(24%→24%)、水力等発電(7%→6%)である。
二酸化炭素を排出しない発電は、原子力+水力で39%→8%、二酸化炭素を排出する発電は、石油+LNG+石炭で61%→90%と、事故さえ起らなければまだまだ原子力発電の割合を増やそうと考えていたんだが、結局は福島原発事故以前にも増して二酸化炭素排出を促進する結果になってしまった。
世界を見ても、電力消費の絶対量が少ない北欧やデンマークの原発完全廃止はともかくとしても、ドイツもその方向に向いている。とはいえ、ドイツは実はお隣の原子力発電大国のフランスから多量に電力を買っているし、お隣のオーストリアからも原発による電力を買っているから、果たしてこれが脱原発と言えるか大いに疑問である。国内的にも意見は真っ二つに割れているようだ。
というわけで、二酸化炭素削減の牽引車になるはずの原子力発電は一時グーンと落ち込み、火力発電の比重が再び大きくなった今、こうした世界的な気候変動が再び二酸化炭素削減問題に注視せざるを得ない状況を作り出している。
火力発電の原料も石油からより燃焼効率の良いシェールオイルやメタンハイドレートにシフトされつつあるとはいえ、いずれにしろ二酸化炭素を排出するわけで、地球温暖化ガスの削減にはなんら寄与しない。
発電コストを見ても(1kwh当たり)、原子力=10.1円、石炭=12.3円、天然ガス=13.7円、石油=30.6~43.4円、風力=21.6円、太陽光=24.2円といった具合に、ごく大雑把に見ても原子量が一番安くつく。
よく、しかし原子力は一端事故が起こると莫大な費用が掛かるから決して安くはつかないという人がいるが、30年、40年のスパンで考えたら、その費用を含めてもやはり原子力が安くつく。火力発電だって、産出する二酸化炭素の除去費用を加算したらさらに費用を上載せしなければならないし、それでも除去できないから困っているのである。
なるほど、原子力はやはり怖い。しかし、誤解を恐れずに言えば、原子力事故による災害が局所的、限定的なのに比べ、二酸化炭素の温室効果ガスがもたらす災害は地球規模であるということだ。
2011年の福島原発事故からもうまもなく8年になろうとするが、最近の異常気象の影響もあり、また結局は経済を考える視点からも原子力発電問題は、もっと広い視野と冷静な判断から考え直そうという機運も生じてきている。
2011年の原発事故直後にもコメントしたが、(原子力発電)、原子力発電はまだまだ克服しなければならない問題を抱えてはいるが、チェルノブイリにしろ、スマイリー島にしろ、福島にしても大いに人為的ミスが重なりすぎた事故で、決して防げない事故ではない。
日本をはじめ、アメリカ、フランスなどの原発先進国が、原子力発電問題に後ろ向きになるのではなく、これからまだまだ拡大するであろう後進国の原子力発電の開発と設置にそして管理に寄与しなければ、逆に恐ろしい事態を招きかねないのである。
原子力発電一基の設置面積を例にとっても、それと同じ電力を生み出すためには、太陽光発電には93倍、風力発電にはなんと567倍もの広さを要するのである。あまりにも単純な比較と思われるかもしれないが、あえて単純化したが、経済面、資源の調達、運用面などあらゆる要素も同様なほどの違いがある。
原子力発電で最も危惧されているのはその廃棄物をどう処理するかである。様々な案があり、一部実行に移されてはいるが、これは容易な問題ではない。決定的な解決策が見出されていないのだ。
ただ一縷の望みはある。
今の原子力発電の原理は核分裂の際に生じるエネルギーを利用しているのだが、核融合によるエネルギーを利用できれば、桁違いのネルギーが得られ、しかも有害な核廃棄物はほとんど出ないのである。
これも単純比較すると、核融合の燃料(水素)1g からは、核分裂の燃料(ウラン)1g の4.3倍、石油なら8t 分(800万倍)、石炭なら13t 分(1,300万倍)のエネルギーが取り出せる。
太陽はまさしくこの核融合反応によりエネルギーを太陽系全体にばらまいているのである。
最近も北朝鮮が水素爆弾の開発に成功したとかいうニュースが流れたが、今人類は核分裂をコントロールできる技術(原子力発電)は手に入れたが、核融合をコントロールできる技術は手に入れていない。一気に爆発する爆弾段階までには到達しているのである。
この分野においても日本は最先端を行っていて世界をリードしている。10年ほど前にも「低温核融合」に成功したとかいうニュースが話題になったことがあるが、これも含めて希望は持てる。
原子力発電問題は、技術的問題だけには限定できない、政治がらみ、人間の感情問題などが複雑に絡むから、なかなかむつかしい問題だ。
しかし、いずれにしろ、今の地球環境を考えても一時の猶予も許されない。
早く核融合の平和利用ができるようになってほしいし、それまでの渡りとしての今の原子力発電問題も冷静に判断し、事態解決に向かっていってほしいものだ。

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