遠くへ行きたい

♪♪♪ 遠くへ行きたい ♪♪♪

 

ジェリー藤尾の歌った歌に「遠くへ行きたい」という歌がある。
学生時代に「歌声喫茶」というのがあり、大阪梅田のどこだったか、本を買いに「旭屋書店」に行った帰り、ふと立ち寄ったときに耳にし、喫茶店内の熱気と客の歌う澄んだ歌声に胸がジーンとなったことを覚えている。
それ以来、大阪の梅田、とくに今でいう「JR大阪駅」のプラットホームに立つと、何番線か向こうに停車している長距離列車にいつも旅愁を掻き立てられるような思いをしたものだ。実際一度なんかは、いてもたってもおられず、大阪駅構内の「交通公社」に行って、当時「周遊券」というのがあったんだが、学生だといっそう割安でこれが買えたんで、大阪から山陰線、山陽線を経由して中国地方をぐるっと一周する旅に出たことがある。
夜11時発の夜行列車に飛び乗っての「立山」行き、信州への幾度もの旅立ち、すべてそうした思いからだった。
今は大阪駅に立ってもそんな思いが起こらない。新幹線ができて、遠くに行くのは「新幹線」と決まっているからだろう。それも、東京であろうが博多であろうがほんの数時間で行ける時代になり、なんだか遠くに行くという感覚ではなくなった。
今日も自転車で関空、関西空港だが、そこへ出かけた。といっても橋を渡って行くんではなく、こちらの海岸から眺めに行くんだが、行くと決まってあの「大阪駅」の感覚が蘇ってくる。
急角度で上昇していく飛行機、徐々に高度を下げて水平に入港してくる飛行機。これからあの飛行機はどこに行くのだろう、上海だろうか、ロサンゼルスだろうか、飽かず眺めながら「遠くへ行きたい」気持ちがムラムラっと湧いてくる。
遠い街、遠い海、行きたいなあ、どこか遠くへ行きたい、そんな抑えがたい気持ちも、今はこうして日本だけではなく、世界のどこかに変わってしまった。