一気に秋が深まってきた。京都鴨川沿いの紅葉もいっそう深まり、下賀茂の北大路橋から京都府立植物園の南正門に至る道は厚く落ち葉が重なっていた。
開門前の道路には車は通らず、両側に立ち並ぶ欅の大木からは微かな風にも煽られた葉が絶え間なく落ち重なり、歩くごとに雪煙ならぬ落ち葉煙が、大げさでなく立ち上る感じだ。
葉の隙間から望まれる比叡の山々がずっと向こうに霞んで見える。反対側の鴨川の土手を時折人が通り過ぎてゆき、自転車が通り過ぎてゆく。音がしない。聞こえるのは落ち葉の舞い落ちる音だけだ。
正門に向って歩いてゆくと、赤く彩られた木々の向こうにひときわ鮮やかな薄緑の木群れが見えた。若葉と見まがう色合いだ。昔何かで見た舞台背景を思い出した。立体感があって誰か俳優が飛び出してくるんではないかと錯覚したくらいだ。
いや錯覚ではなかった。後ろから走ってきた女性が傍らを通り過ぎて向こうの舞台に立ち止り、軽く体操を始めた。軽く会釈をすると、びっくりしたように会釈を返した。美しい女性だ。ジョギング用に装いを整えたその女性は鶴のように美しい。
夢と現実がないまぜになった不思議な空間だ。
深まりゆく秋、センチメンタルに陥りかけた矢先に、少し心がときめいた。