The voice of a male deer crying for a female deer sadly sounds in Kasuga. And the leaves which turned red fall down as if adjusting to its voice.
奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき
小倉百人一首にも入集されている『古今和歌集』詠み人知らずの有名な歌です。「詠み人知らず」とはなっていますが、謎の歌人、猿丸太夫の歌です。
古来、秋の紅葉が散るころ、人里はなれたところで、宵から明け方にかけて甲高く鳴く牡鹿の声は誰もが気になっていたのでしょう、『万葉集』だけでも68首も歌われています。
どんな声かは、今の時代ですね、YouTubeを開けば簡単に誰でも聞くことことができます。切ないと言うか、切羽詰まった必死な声です。
びいと啼尻声悲し夜の鹿
さすがですね。その牡鹿の鳴く声を芭蕉は最も的確に歌い込んでいます。「びいと」甲高く啼き始め、「尻声」は低いトーンで声を呑み込む様子を見事に5、7、5に纏めています。
雌鹿の発情期間は、いや発情時間なんです、24時間。その間に交尾しなければ子は生まれません。雄鹿も必死ですが、雌鹿も必死なんです。
鳴くのは雄鹿ですから、雌鹿はその声を聞き分け、強くて逞しい雄鹿の元に馳せ参じるんでしょうね。
この雄鹿のなく声に哀感を感じ始めたのは平安期ころからで、『万葉集』には後に歌われるような哀感の歌はありません。このことからも、日本の文化の変遷が感じ取れます。