今歩いている農道は狭い。曲がりくねった先に白い軽トラが止まっている。気に留めることなく、田んぼの片隅に作ったちょっとしたお花畑を眺め眺めゆっくり歩いていくと、軽トラのエンジン音が聞こえた。ぼくが通り過ぎるのを待っていてくれたんだ。ああ悪いことをしたとお辞儀をして運転席を見ると、麦藁帽にタオルを巻いた農家のおじさんがニコッと笑って挨拶を返してくれた。その笑い顔がいい。たぶんぼくよりは年下であろうに、慈愛溢れたオヤジの顔だ。うれしいねぇ。こんな瞬間の得も言われぬ幸福感。朝一番のこの出来事は一日中余韻を引いた。
昔、東大総長の茅誠治先生が東大の卒業式式辞で卒業生に贈った次の言葉がきっかけになって「小さな親切運動」が日本中に巻き起こったことがある。
「小さな親切」を勇気をもってやっていただきたい。
そしてそれがやがては、日本の社会の隅々まで埋めつくすであろう、
親切という雪崩の芽としていただきたい。
茅先生の言葉を聞いてかどうかは、そして「小さな親切運動」が功を奏してかどうかはともかく、確かに小さな親切に助けられたり、遭遇することはよくある。
車に乗っていて、割り込んでくる車に道を譲ると直後、ハザードランプを点滅させて挨拶する車が最近よくあるが、これだけでも心が和む。言葉を交わさずとも心通わせることができる。
外国人の友人からも、日本人から受けたちょっとした親切がどれだけうれしかったか、よく聞くことがあるし、それを聞かされただけでも心がジーンとなる。
今回の東日本大震災で外国メディアが伝えたに日本人の心の豊かさは、日ごろ培われた「小さな親切」の集大成かもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=zcddMwUvgAU