閑中忙あり

 
大根畑で大根の葉がゆさゆさと揺れている。そのたびに土からかなり伸び出た白い太もものような大根が見え隠れする。
今日はいちばんの寒さだ。と言っても手が悴むほどではないからまだ本格的な寒さではない。風が強い分体感温度は低く感じるだけだ。
耳に差し込んだイヤホンからはクリフォード・ブラウンのトランペットにのってMinorityが流れてくるが、耳を摩るように流れてゆく風の音がスィングをいっそう強くしたり、時にはかき消すこともある。
道に沿って一列に並んでいる背丈ほどに伸びたセイタカアワダチソウの先に付いた綿毛がさーっと飛んでゆく。と次の瞬間、風向きが急に変わって、真正面から吹き付けるものだから歩くに歩けない。よろけさえする。
負けて堪るものかと身を屈めながら前に突き進もうとすると眠っていた身体から力が湧いてくる。
風は好きだ。
風が吹く中を歩くとなぜか心が躍る。そよ風もいいが、こんな強い風の中を歩くのもいい。耳を摩る風の音がそんな心をなおのこと焚き付ける。
それにしてもこの風の音をどう言い表したらいいのだろう。びゅーびゅーでもない。ざわざわでもない。びわんびわんでもない。昔からこんな時いつもいつも考えるんだが、今日も的確な表現が出てこない。
「どっどど どどうど どどうど どどう・・・」とある日突然教室に現れ、「どっどど どどうど どどうど どどう・・・」と転校していく風の又三郎を思い出した。
やっぱりこの表現がいちばん近いかもしれない。

食料品が底をつきかけているので買い出しに出かけた。
日ごろの運動不足を少しでも解消しようと、片道1㎞程のスーパーにはできるだけ歩いていくように努めているが、今日はきつい。
今年の冬は暖冬だとかで11月には珍しい夏日が連続し話題になった。
その通りで、いつもならこのころ着ている分厚目の下着はまだ着ていないし、ストーブの火をまだ点した日はない。
水茄子畑には水茄子が、無花果畑には無花果が、もうほとんどがしわしわになってはいるがまだたくさんぶら下がっているのもこの時期珍しい。
テレビでは連続テロのあったパリでCOP21が開かれ、地球温暖化対策を論じ合っていると報じているが、どこまで切実に感じているのか各国首脳の顔が寝ぼけ顔だ。
牛乳を買い、卵を買い、何やかやを買って荷物が重い。5,6㎏はあろうか。横からまた強い風が吹いて田んぼに突き落とされそうになる。
坂道を歩いていくと汗ばんできて薄めの冬下着にひんやり感が漂う。それでも急がねば。

このところ、大学・高校受験や学校の定期試験の対策で慌ただしい毎日を送っているが、これとてほとんどが夜だけでまるで夜の蛾(夜の蝶は艶やかでいいですが)みたいなもの。
昔に比べたら閑中忙ありは否めない。

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